深い緑に覆われた静かな森。大原の有名観光スポットから北へ3kmほど、人跡まれな山中に古知谷阿弥陀寺はある。周囲には300本近いカエデが群生、隠れた紅葉の名所として知られているが、新緑輝く季節もまた趣深い。春から初夏にかけては、境内に咲く白や紅紫の九輪草が見頃を迎える。京都府の準絶滅危惧種だが、この寺では20年以上かけて少しずつ増やし、現在400株ほどを見ることができる。
そして何よりここは関西で唯一、即身仏を安置するお寺だ。即身仏とは、衆生救済を願い瞑想を続け、そのまま仏となること。食物と水分を絶ち、生きながらにして自らをミイラ化させていくこの苦行は、強い精神力が必要であり、仏教の修行の中で最も過酷なものであるといわれる。古知谷阿弥陀寺のミイラ仏は、寺を開基した弾誓上人。その姿を見ることはできないが、本堂には上人自らが刻んだ弾誓上人像があり、目を凝らせば耳のあたりにわずかに残る植髪が現在も見られる。
令和を迎え1年が経とうとしている。いつの時代にも、人々は苦難を乗り越え懸命に生きてきた。そんな私たちのため、壮絶な修行を遂げた即身仏は、今でもその身をもって祈り、導いてくれている。
アクセスマップ
古知谷 阿弥陀寺/大原(京都市左京区)
所在地:京都市左京区大原古知平町83
拝観時間/9:00〜16:00 ※1月、2月は積雪のため休み
拝観料/500円
TEL/075-744-2048
▼京都からのアクセス
京都バス「古知谷」より徒歩約15分
文:池内潤子