もてなす心 京菓子と器 – 有職菓子御調進所 老松

北野天満宮の東側の道を入ると、そこは京都でもっとも古い花街である上七軒。
「有職菓子御調進所 老松」は、この風情ある佇まいの町屋が軒を並べる上七軒にあり、創業時から儀式や典礼に用いられる有職菓子や、お茶席で供する京菓子を作ってきた。婚礼菓子、茶席菓子を中心に、たえず新しい菓子を生みだしている老松の菓子職人・中丸氏に話を聞いた。


「婚礼菓子の「蓬が嶋(よもがしま)」は、中国の伝説にある、不老不死の仙人が住むという「蓬莱山(ほうらいさん)」を表した和菓子です。中に五色、七つの小さな薯蕷饅頭が入った大きな薯蕷饅頭の表面を“宝の山”を意味するきんとんで飾り、その上に“こなし製”の「松・竹・梅」を散りばめた、たいへん豪華で、おめでたい席にふさわしいお菓子ですね。薯蕷饅頭の中の小さな薯蕷饅頭は、子宝に恵まれますようにという願いが込められています。」

「婚礼菓子の「蓬が嶋(よもがしま)」

婚礼菓子というのは、有職菓子の中で唯一現代に息づいているもの。今も祝いの席にお菓子は付き物だが、時代とともに、日持ちのしない上生菓子は注文が減ってきたという。「引き出物のお菓子には、日持ちのする洋菓子が一般的になりましたが、京菓子には、想いを形に出来るというメリットがあります。ここまで絢爛豪華でなくとも、お二人の思い出や趣味のものなど、ご希望に合せてお作りできるので、ぜひ、若い方にも京菓子を知ってもらい、ご利用いただきたいですね。」

「そもそも、菓子職人は、亭主が茶席でお客様にもてなすお菓子を作るオーダーメイドが基本なんです。お茶席での設え、道具、お招きする方への想いをお聞きしてお作りするんです。ご希望をかたちにしていく仕事は、本当に楽しいですね。」

茶道とともに発展した京菓子。「一席一菓」、特別なお菓子を客人にもてなす文化が、京菓子をより美しく、華やかに発展させてきたのだろう。その味は繊細で奥深く、心にまで染み通るようだ。

「和菓子は素材の味でしかないんでね。いろいろな味付けをせずに作りますので、良い素材で作らなければ、味の差がはっきりと出てしまう、ごまかしのきかない世界です。『あぁ、もう一度食べたいな』と思っていただけるお菓子でなければ、お客様にお出ししてはいけないと考えています。」

昔からの伝統を大切にしている京菓子。老松の菓子職人は、古い教えを守りながらも若い才能を存分に活かし、現代のニーズにも対応している。日持ちがきき、いろどりも良い干菓子は、新進気鋭の陶器デザイナーがプロデュースする“物語をつむぐ”というコンセプトの器とコラボレート。若い世代にも和の心が広がっている。菓子職人の先人たちがしてきたように、常にその時代と感性を柔軟に取り入れた“挑戦”には、変わらない「もてなしの心」と変わっていく「物語」が混在する。見たことも無い、懐かしい京菓子の姿をこれからどんなカタチで魅せてくれるのか、気持ちが華やぐ心持ちになった。

リナシメント創刊号にもご登場頂いたSIONEさんとのコラボレーションから生まれた、ギフトシリーズ〈KIKI〉四季の物語を表現する器のデザインと丹精こめた老松の干菓子の生み出す物語が、贈られた人に微笑みを。

株式会社 老松
京都市上京区今出川通御前通東入社家長屋町675‐2
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