愛宕山の麓、江戸時代の面影残す茶屋で
四季をうつし出す里の幸を味わう
古くより火伏の神として知られる愛宕神社。その神域がはじまる一の鳥居の傍ら、静かに佇む「鮎茶屋 平野屋」は、江戸時代初期より愛宕山へ赴く多くの旅人をもてなしてきた。鮎料理が楽しめるのは、主に夏。鮎漁が解禁される6月から10月にかけて、保津川や清滝川などで捕られた鮎は、生簀でひと晩休ませる。そうすること腹の砂が抜けて生気を取り戻し、食べごろになるのだという。最も脂が乗っているのは7〜8月だが、6月は若鮎、9〜10月は子持ち鮎と、その時期にしか味わえない美味しさがある。鮎のほかにも、春は山菜、秋は松茸、冬は牡丹鍋など、地元産の素材を用いた旬の味が楽しめる。
そして忘れてはならないのが、上方落語『愛宕山』にも登場する愛宕名物「志んこ」。400年前の創業当初より参拝者に親しまれてきた米粉の団子で、かつて愛宕山参拝が盛んだった頃には、街道に建ち並ぶそこかしこの茶屋で売られていたという。千日詣りの日には今でも振る舞う店があるというが、気軽にふらりと立ち寄って食べられるのは、もうここだけだ。土間のおくどさんで蒸し上げられた志んこを、黒糖を混ぜたきな粉とともに口に入れる。その柔らかい舌触りと優しい甘さは、いざ山道へと奮起する人々の英気を養ったに違いない。
取材・文/junko ikeuchi
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