京都で「抹茶」といえば、宇治を思い出す人は多いだろう。全国のお茶の品評会で毎年上位を占めるという最高級の茶葉が、実は城陽市で作られているということは、地元民にもあまり知られていない。城陽市の西端、水主の地で200年以上に渡りお茶づくりを営む株式会社孫右ヱ門は、安土・桃山時代から続く伝統製法、「ほんず製法」を受け継ぐ数少ない茶農家だ。抹茶の原料となる碾茶(てんちゃ)は、玉露と同じく新芽が出てからの数日間、覆いを被せることが必要だが、現在は化学繊維が主流である。これを、ほんず製法では、ヨシを編んだすだれ状の「よしず」と、稲を干した「わら」を葺く。化繊であれば約50m四方で5分ほどのところ、この製法では覆うのに1時間半ほどかかるというから、大変な労力だ。わらやよしずのコストもかかり、収穫も少量しかできないが、それでもほんず茶園を維持し続けるのは、圧倒的な味の差だという。手間暇のかかるほんず製法で作られたお茶は、ほのかに甘く、癖のない上品な味となるのが特徴。実際にお茶をたてさせてもらったが、その色の鮮やかさにも驚かされる。高品質の抹茶は、鮮やかな蛍光色をしており、これが本来の色なのだそう。
お茶をいただきながら、茶摘みや肥料のことについても話を聞いた。今、ほんず茶園は肥料やりの時期だという。与えるのは、有機肥料の中でもトップクラスの、イワシやニシン。ダンボール1箱数千円という、予算度外視の高級品だが、3〜4mほど撒くと使い切ってしまう。これを暖かくなる季節まで与え続け、春が来たらいよいよ茶摘みだ。現在では、茶摘みも機械が増えているが、孫右ヱ門では、もちろん手摘み。なぜ、そこまで手間とコストをかけるのか。そこには、ただひたむきに「美味しいお茶を作りたい」という想いがある。
さらに孫右ヱ門では、碾茶づくりだけでなく、加工やお茶の点て方なども含め、抹茶の本質を知ってもらうための体験ツアーを実施している。茶園と工場見学、最高級ほんず抹茶の試飲会で約2時間半。海外からの参加者などはかなりの“お茶通”も多いが、予定時間を大幅に過ぎることもしばしばで、みな満ち足りた表情で熱心に話を聞くという。「ここなら、お茶についての謎が全て解ける」というのだ。京都のお茶文化は分業化が進み、全容が見えにくいという現実がある。お茶を育て、摘み、碾き、抹茶にし、そして味わう。その一連の流れを知ることができる貴重な場所なのである。茶摘みの時期は混雑するが、この時期はゆったりと見学ができるので、興味のある人はぜひ体験してみてほしい。お茶に親しみたいという初心者はもちろん、さらに知識を深めたいという上級者も、きっと満足できるに違いない。
京都府城陽市水主南垣内20-1
TEL:0774-52-3232
※ 体験ツアーは9:30〜12:00(1週間前までに要予約)
1名10,800円(税込)、5/1〜6/10は休み
株式会社 孫右ヱ門 公式サイトはこちら