ふわりと湯気が立ち上る、焼き立てのローストビーフ。
口にした瞬間、その柔らかさと上質な味わいに感動がこみ上げる
焼き立てのローストビーフを食したことはあるだろうか。え、ローストビーフって冷たい料理じゃないの、という人は、ローストビーフの店Watanabeでぜひ一度味わってみてほしい。実際、本場イギリスをはじめ、海外では温かいものが主流だ。「パンを例にとっても、焼き立てのほうが断然美味しいですよね。その感動を味わって欲しくて、当店ではテーブルの席の前で焼き上げています」と、オーナーシェフの渡辺勇樹氏。表面を焼いた後は、余熱でじっくり火を入れていき、肉の芯部を53度に保つ。この徹底した温度管理こそが、濃密なコクとうま味を凝縮させる秘訣だ。コース料理で選べる素材は3種類。モモ肉の中でも特に柔らかい「ランプ」、赤身の中にも適度な霜降りがある「イチボ」。残るひとつは、北山「南山」より仕入れている熟成肉。あっさりとしていて、肉の油が苦手な人でも食べやすく、肉本来の味わいが楽しめる。部位が変わればもちろんであるが、同じ部位であっても、もともと牛という生き物である以上、全く同じ形はあり得ない。形が変われば、焼き方や切り方も変わる。当然、食感も変化する。そもそも塊肉を薄く切るなら、冷めている方が都合が良いのだ。熱い状態で切るのは難しい上に、日ごとに異なる素材を最高の形で提供するには、経験則がものを言う。「常連のお客様の中には、違いがわかる方もいらっしゃいます。ですから、その日その日で、一番美味しくなるように、精一杯ベストを尽くしています」と渡辺シェフ。
シンプルに見えて実は奥が深いローストビーフ。一度味わえば、その魅力にとらわれるに違いない。
取材・文/junko ikeuchi
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