琴音(ことね)奏でる 緑陰の隧道を行く 宇治 興聖寺

宇治川の右岸、宇治が誇る世界遺産・平等院の対岸に静かに佇む寺院がある。曹洞宗の名刹、仏徳山 興聖寺だ。紅葉の名所として知られるがゆえに秋は混み合うが、宇治の観光エリアの端に位置することもあり、今の時期はあまり人の気配がなく、凛とした静寂に包まれている。
この興聖寺には宇治川のほとりから続く参道があり、約200メートルにわたって、カエデ、ヤマブキ、竹などが植えられている。緑陰に包まれたこの坂道は「琴坂」と呼ばれ、すぐそばを流れる谷水の音が琴の音色のようであるというのが、この坂の名前の由来である。耳をすませば、どこか慎ましやかな、けれども絶え間なく響くその音色に、風に吹かれてサラサラと鳴る木々の葉音が混じり合い、豊かな自然の涼を感じさせてくれる。

境内に足を踏み入れると、この時期は回廊沿いに咲いたサツキが美しい。手入れの行き届いた庭の粛然たる佇まいに、鮮やかな赤やピンクが華やかさを添えている。本堂は伏見桃山城の遺構で建立。縁板の天井には、武者たちが残した血の手形や足跡を見ることができ、廊下は、歩けば小気味よい音のする鶯張り。本堂の西にあるのが、坐禅道場である僧堂。坐禅の際に使う座蒲がずらりと並ぶその内部は、厳粛な雰囲気が漂う。興聖寺は道元禅師初開の禅道場として知られ、ここで日夜、全国から集まった修行僧が、一切の思慮分別を超越した只管打坐を続ける。その門戸は一般に向けても開かれおり、日曜参禅会、体験坐禅なども行われている。他にも、寺を開山した道元禅師の木像が安置された開山堂や、小滝の流下する内庭を有した大書院など、各堂宇は回廊で結ばれ、その閑寂な空間をゆったりと巡ることができる。

都心に近いながらも、豊かな自然と静謐さに満ちた興聖寺。観光客の増え続ける京都で穴場とも言えるこの場所で、初夏の風情を感じてみてはいかがだろうか。

仏徳山 興聖寺
宇治市宇治山田27-1
TEL:0774-21-2040
拝観受付:9:00〜17:00(年中無休)
仏徳山 興聖寺 公式サイトはこちら