心根が舞を彩り 手技が涼を呼ぶ – 京都岡崎、小丸屋 住井

「深草うちわ」をご存知だろうか。その歴史は古く、約400年前、時の帝の「伏見深草の竹を使い、うちわ作りを差配せよ」との命により始まり、天正年間(1573〜92年)に確立したとされる。このうちわ作りを命じられた公卿を先祖にもつのが、寛永元年創業の「小丸屋 住井」である。芸舞妓が夏の挨拶に使う名入りの「京丸うちわ」や、五花街の春の踊りを支える舞扇や小道具を制作していることでも知られる老舗である。

現在の深草うちわは、やや縦長のなつめ型をしているが、それは瑞光寺に庵を結んでいた元政上人の発案によるもの。住井家と歌仲間であった上人がなつめ型を考案、出来上がったうちわに歌を詠んだ。それが評判となり全国的に大流行、京土産として人気を博したという。そんな深草うちわも、明治に入り姿を消すが、元政上人を研究していた龍谷大学名誉教授の宗正五十緒先生との縁により、18 年前に復元。さらには、長刀鉾や送り火に代表される、京都の風物や祭事などを描いた「新深草うちわ」も誕生した。

現在、型を使った打ち抜きによるうちわ作りが増える中、小丸屋では全て人の手で作られる。分業でないため一人前の職人になるのに3年ほどかかり、どれほど急いでも1日に400本程度しか作ることはできない。それでも小丸屋が手仕事にこだわるのは、先祖に恥じない、良い物作りがしたい、というひたむきな想いがあるから。例えば、紙を張った骨組みをうちわの形に切る「打ち切り」という作業。竹は生き物であり、全く同じ太さのものは存在しない。そのため、職人の目で鎌の置く位置を見極め、絶妙な力加減で打ち方を調整する必要があるのだ。
手間暇をかけ、想いを込めて作ったものには心が宿る。それが自ずと伝わり「小丸屋製のうちわが一番しっかりしていると聞いた」と、東京からも注文が入る。また、その物づくりの心、そして400年もの間続けられた継承の秘訣を学ぶため、海外から訪れる人も後を経たない。

さらに驚くべきは、小丸屋が誇るその高い技術を、惜しみなく開示していることだ。時には競合であるはずの他社へうちわ作りの指導へ出向くこともあるという。「うちわ作りを差配する」立場から、職人が減り続けている今こそ助け合い、ともに良いものを作っていく。そうすることで、江戸時代より脈々と繋いできた伝統と文化を守り伝え続けているのである。
1本のうちわが起こす、優しい風。その心地よさに酔いしれながら、そこに秘められた歴史と人々の想いを、ぜひ感じてみて欲しい。

小丸屋 住井
京都市左京区岡崎円勝寺町91-54
TEL:075-771-2229
営業時間:10:00~18:00(日祝休)
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